JOURNALガリレオ通信血液検査の異常・・・そのままにしていませんか?

下痢をしている12歳のチワワちゃんが初診でいらっしゃいました。内服薬で治療をしていたそうですが、良くなったり悪くなったりを繰り返し、なかなかスッキリ改善しないという事です。

詳しく聞くと、1年前の健康診断で血液検査をしており、その時は肝臓の数値が高かったそうです。ただ、原因を調べることはなかったため食事を変えて過ごしていました。

そこで、今回の下痢と直接関係するかは分かりませんが、1年ぶりだったので血液検査を実施しました。
すると・・・肝臓の数値は正常値をはるかに超えており、さらに血中コレステロールと中性脂肪の値もかなり上昇していました。

胆嚢が腫大した模式図

原因を調べなくてはいけません。すぐに腹部の超音波検査を実施しました。

超音波検査の結果、この子の問題は“胆嚢”にあり、肝臓は二次的に異常が出てきていると考えられました。

診断としては・・・「胆嚢粘液嚢腫」です。それもかなり進行した状態でした。
胆嚢がパンパンに拡張し、今にも破裂しそう。
通常、胆嚢の中にはサラサラの液体(胆汁)が貯まっていますが、胆嚢粘液嚢腫の場合には中がゼリー状に固まり胆汁がサラサラと流れない状況にあります。

この状態を放っておくと、胆嚢が破裂して中身がお腹の中に散らばり腹膜炎を起こしたり、肝臓から出血したり、感染を引き起こしたり・・・命に関わる重篤な状況になるかもしれません。

今回の検査で、この胆嚢は破裂寸前、胆汁の鬱滞、肝臓の変性や炎症も認められると判断し、胆嚢を摘出する手術を実施することにしました。

胆嚢が腫大している模式図

開腹すると検査の通り、胆嚢は重度に拡張し上腹部の右半分を埋めるほどでした。
幸運にも破裂や周囲との強固な癒着はなかったため、比較的スムーズに摘出することができました。
また手術後の回復は驚くほど早く、術後2日後に退院しました。

病理検査で、胆嚢は後期の胆嚢粘液嚢腫、肝臓は慢性胆管肝炎および肝細胞変性でした。
術後は肝臓の数値が低下し、お腹の調子も改善しました。

このように血液検査で異常値が出たとしても、その原因までは分かりません。
今回のワンちゃんは、画像検査をしていなければ、非常に厳しい状態での手術になったり、最悪の場合には手遅れになった可能性もあります。

「毎年、健康診断で血液検査はしています。」というお話しはよく聞きますが、異常値が出た場合にどうしていますか?

少なくとも様子を見てよいのか、原因は何か、を調べるために画像検査はした方がよいでしょう。
特に、今回のように肝臓以外の疾患で肝臓が二次的に影響を受け血液検査に現れたりすることもあります。また肝臓にはものすごい予備能力があるため、慢性肝疾患の症状は病状がだいぶ進行してから現れます。その時点で治療するのと、症状が現れる前に治療を始めるのとでは、どちらがよいかは明らかです。

健康診断で血液検査に異常がなくても、超音波検査で異常が見つかるケースもあります。8〜9歳を過ぎたら毎年の健康診断に画像検査を入れていきましょう。
ワンちゃんやネコちゃんの1年は人間の4〜5年に相当します。それを意識してあげるとよいかもしれませんね。

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この記事を書いたのは
獣医師
勝村 桃子MOMOKO KATSUMURA
東京大学卒・神奈川県横浜市出身
BACKGROUND

大学卒業後、川崎市の動物病院に勤務。 その後、日本動物高度医療センター画像診断科にて11年勤務。超音波検査を専門とする。 2018年 ガリレオ動物病院勤務。

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