JOURNALガリレオ通信犬のアトピー性皮膚炎

わんちゃんはいろいろな皮膚病にかかります。
膿皮症やマラセチア感染症、脂漏症、多汗症、いろいろな要因で起こる脱毛など・・・
その中でも最近よく遭遇するのは「アトピー性皮膚炎(CAD)」です。

特徴的な症状がみられるため、臨床症状から診断します。
アトピー性皮膚炎を疑うチェック項目をあげてみましょう。

☑︎6ヶ月齢~3歳の若齢で発症している。
☑︎室内飼育である。
☑︎体の左右対称性に病変がみられる。
  ・病変が出やすいところ、つまり痒みが生じやすいところは脇、股、前肢の先や指の間。
☑︎好発犬種である。
  ・人のアトピー性皮膚炎でも家族歴が重視されているように、犬も遺伝的素因が関与しており、その代表犬種は柴犬。
  ・フレンチ・ブルドッグ、ボストン・テリア、トイ・プードルなどの犬種でもよく発症がみられる。
☑︎ステロイド剤で痒みが軽減し、症状の改善が認められる。
☑︎耳介外側に症状があり、耳介辺縁に症状がない。
☑︎背中から腰に症状がない。

これらのチェック項目に多く当てはまると、アトピー性皮膚炎を強く疑います。

また最近の研究で、皮膚のバリア機能障害がアトピー性皮膚炎(CAD)に深く関与することが分かってきました。
具体的には、アトピー性皮膚炎の子の皮膚では角質構造の異常や角質細胞間脂質(セラミドなど)が減少しています。

今までは免疫学的要因が病態に深く関与すると言われていましたが、それだけでなくアトピー性皮膚炎の子は生まれつき皮膚バリア機能障害があり、そのせいでアレルゲンに暴露されやすいと考えられます。

つまり・・・アトピー性皮膚炎の子の皮膚はとてもデリケート。

健康な皮膚よりも水分の蒸発が多いため、とても乾燥しやすく、また皮膚バリアがものすごく弱いということは、健康な皮膚では問題にならない程度の皮膚表面にいる細菌やマラセチア、毛穴の奥にいるニキビダニなどが増殖しやすい、ということです。

すると二次的な感染症が皮膚病変をさらに悪化させるため、これらの治療をしなくては皮膚病変そのものの改善につながりません。

例えば、⬇︎この子はアトピー性皮膚炎にマラセチア感染症が併発していました。
ひどい痒みで皮膚は赤く腫れあがり、ボロボロになっていました。

そこで、感染症を治療し、皮膚コンディションを整えながら、お薬や外用薬で痒みのコントロールを行なったところ、3週間後にはとってもきれいになってきました。

アトピー性皮膚炎治療のためには皮膚のバリア機能を高めなくてはなりません。
それには継続的な“スキンケア”がとても大切なこととなります。
特に重要なのが「保湿」です。
人間と同じですね。
例えば、ローションや滴下タイプの保湿剤を塗ってあげたり、シャンプー剤は保湿剤が入ったものを選んだり、サプリメントを使ったり、皮膚にいいことを積極的に取り入れます。

アトピー性皮膚炎の治療は、この「二次感染症のコントロール」と「スキンケア」をしっかりやることで、症状を抑える薬物療法を最小限にすることができるのです。

シャンプー

薬物療法にもいろいろな方法があります。
痒みの程度や皮膚の状態に合わせて、内服薬と外用薬を組み合わせ、皮膚の変化を見ながら使う薬の強さや種類を変えていきます。
近年、副作用が非常に少ない、とてもいい薬が開発されており、ひと昔前のようなステロイドに頼るだけの治療は必要なくなりました。

アトピー性皮膚炎はこれだけやれば治るという病気ではありません。
多面的な治療により上手に皮膚のコンディションを管理することが、治療につながるのです。

“痒み”というのはものすごいストレスです。
赤く腫れた皮膚、厚くゴワゴワに硬くなった皮膚、色素沈着して黒ずんだ皮膚・・・このような皮膚の子たちは、常にムズムズして皮膚に違和感を感じています。

色素沈着/柴犬
色素沈着/柴犬

⬆︎この子もアトピー性皮膚炎ですが、慢性的な炎症で皮膚が硬くゴワつき、色素沈着を起こしています。
この皮膚が気にならない訳はありません。長年このような状態だったそうです。

しかし、飼主さんのご協力の元、きちんとお薬を使い皮膚コンデイションを整えてあげれば、ステロイド剤の内服を使わずに2ヶ月後には皮膚が柔らかくなり、毛も生えてきました⬇︎。

同じ子の写真とは思えませんね。

2ヶ月後改善した皮膚/柴犬
2ヶ月後改善した皮膚/柴犬

アトピー性皮膚炎の子の症状が改善してくると、飼主さんがよく口にする言葉があります。

「以前より、ぐっすり眠るようになり、日中元気に遊ぶようになりました!」

そうです!
痒みのせいで、それまでぐっすり眠れていなかったのですね。
またストレスがなくなると、今までより活発になったり、食欲が増したり、明らかに元気になります。
とても嬉しい変化です。

アトピー性皮膚炎の治療に必要なのは、飼主さんのご理解と継続的な協力・根気です。
なぜなら、生涯にわたる管理が必要になることも少なくないからです。

しかし、ちゃんと向き合ってあげれば十分な効果が実感できますし、継続することが結果的に最小限の治療で維持できることにつながるのです。

アトピーだから・・・と諦めないでください。
ぐっすり眠れる日が来るように、治療を始めてあげましょう。

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この記事を書いたのは
獣医師
勝村 桃子MOMOKO KATSUMURA
東京大学卒・神奈川県横浜市出身
BACKGROUND

大学卒業後、川崎市の動物病院に勤務。 その後、日本動物高度医療センター画像診断科にて11年勤務。超音波検査を専門とする。 2018年 ガリレオ動物病院勤務。

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