「短頭種」と呼ばれるワンちゃんたちは、マズル(鼻の長さ)が短い“鼻ペチャ”顔が特徴で、その愛くるしい姿で大人気の犬種です。
フレンチブルドック・パグ・ボストンテリア・ペキニーズ・チワワ・狆・ブルドック・ブリュッセルグリフォン・シーズー・キャバリア・ボクサーなどが短頭種になります。
この種類のワンちゃんたちは、人間がいろいろな目的に合わせ品種改良をした結果、独特な姿をしているのです。
例えば・・・ガリレオの看板犬にもなっているイングリッシュ・ブルドックは、牛と戦うために作られた犬種がルーツになっています。
牛の足に噛みついたまま鼻で呼吸ができるように、顎よりも鼻が引っ込み鼻の穴が上を向くような顔に作られたと言われています。
この鼻ぺちゃ顔がたまらなく好きな方も多いかと思いますが、このお顔のせいで生まれつき呼吸器にいろいろな問題を抱えています。
それが「短頭種気道症候群」・・・短頭種特有の呼吸器の構造が原因で起こる気道障害の総称です。
この症候群に含まれる疾患は
・軟口蓋過長症
・外鼻孔狭窄症
・気管低形成や気管虚脱
・喉頭小嚢外反症
・喉頭虚脱や喉頭麻痺
などがあり、これらが複雑に絡み合い症状を示します。
これらの疾患があると、口や鼻からの空気の通りが悪いため、他の犬種に比べて一生懸命呼吸をしなくてはなりません。
例えて言うなら、人が“ストロー”で呼吸をしているようなものです。
そのため、激しく息を吸う時にガーガーと音が鳴ったり、大きなイビキをかく子がいます。
また呼吸がしづらいため、短頭種は熱を発散させるのが苦手です。
つまり体温が上がりやすく下がりにくい・・・暑さにとても弱いのはそのためなのです。
よく短頭種は飛行機に乗れない、という話しを聞いたことがあるかと思います。
実際、ANAは5/1-10/31の期間、短頭種の搭乗を中止していますし、JALはフレンチブルドックとブルドックが通年において搭乗できません。
これも、短頭種の気道の問題が命に関わることが理由なのです。
では、この短頭種気道症候群はどうしたらよいのでしょうか。
この疾患は顔や喉の構造が原因のため、内科的治療(お薬を飲む)では完治しません。
薬で症状が和らぐ場合もありますが、根本的な治療には外科手術が必要です。
しかも、この疾患は年齢とともに病態が進行することが多く、適切な治療をするなら早い時期に実施することをお勧めしています。
「軟口蓋過長症」
喉の奥の軟口蓋は、鼻と口それぞれの通り道を隔てる後方に伸びた柔らかい部分を言いますが、この部分が通常よりも長く厚いため、喉を塞ぐほどになっているのが軟口蓋過長症という疾患です。
治療は、この軟口蓋を短く切除するのです。
当院の看板犬あこちゃんも、1歳になる前に軟口蓋を切除しました。
そのおかげで“イビキ”が静かになり、呼吸が楽になったようです。
「外鼻孔狭窄症」
短頭種の鼻の穴をよく見てみると、“穴”というより“カーブした線”のようになっている子がいます。これでは、スムーズにに空気が入っているわけはありません。
この線をきちんとした穴にする手術があります。
これで変わるの?と思われるかもしれませんが、この穴の違いで呼吸はだいぶ楽になります。
この手術は軟口蓋切除の手術と同時に実施することも多い手術です。
気管低形成や喉頭虚脱のように、手術では治せない疾患もあります。
しかしながら他の疾患も含め、短頭種の子はどの程度の問題を抱えているかを知っておくことが重要です。
検査をして確認すれば、何に気をつけるとよいか、今のうちに出来ることはないか、をご相談できるかと思います。
梅雨から夏場は、短頭種にとっては危険な時期です。
十分に気を付けて夏を乗り切りましょう!
幼少期から常にたくさんの犬に囲まれて過ごしていたことで、自然と獣医師を目指す。 大学卒業後、川崎市の動物病院に勤務し、その後日本動物高度医療センターで10年間勤務。同センターでは循環器・呼吸器科の医長を務める。 2018年ガリレオ動物病院を開業。